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岡山地方裁判所 昭和57年(ワ)817号 判決 1985年7月11日

原告

高杉みどり

被告

津田博史

ほか一名

主文

一  被告津田博史は、原告に対し、金一九三八万三八九一円及びこれに対する昭和五七年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、被告津田博史に対する本判決が確定したときは、原告に対し、金一五三九万七五二九円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告津田博史との間においては、原告に生じた費用の四分の一を同被告の負担とし、同被告に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告と被告安田火災海上保険株式会社との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告津田博史は原告に対し金四四七七万一三八三円及びこれに対する昭和五七年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文第二項同旨

3  訴訟費用は被告安田火災海上保険株式会社(以下被告会社という)の負担とする。

4  1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

原告は、次の交通事故により傷害を受けた。

(一) 日時 昭和五二年六月二〇日午後七時五五分頃

(二) 場所 岡山市平井元町一七七四番地先交差点

(三) 加害車 普通乗用車(岡五六た六七五六)

右運転者 被告津田博史(以下、被告津田という)

(四) 態様 被告津田が、前記日時場所において加害車を運転中、対面する赤信号を無視して時速約一〇〇キロメートルの速度のまま交差点内に進入し、折柄左方より青信号に従つて進入してきた訴外長尾憲一運転の普通乗用車に衝突して転倒し、加害車に同乗していた原告に対し傷害を負わせた。

2  責任原因

(一) 被告津田の責任

被告津田は本件加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 被告会社の責任

(1) 原告は前記(一)の責任原因により被告津田に対する損害賠償請求権を取得した。

(2) 被告津田は本件事故発生当時被告会社との間において、同人が本件加害車を運行して交通事故を起こし、そのため他人を死傷させたときは同人がその他人に支払うべき損害賠償金を被告会社において負担支払うとの任意自動車損害賠償保険契約を締結していた。しかるに被告津田は、本件事故を起こしたので右契約の約款に従い、被告会社に対し、本件事故による損害賠償責任額が、同人と原告との間で判決により確定することを停止条件として、右保険金の支払請求権を取得した。

(3) 被告津田は本件事故による原告の損害を賠償するに足る資産・収入を有しない。

(4) 被告らはそれぞれ損害賠償義務、保険金給付義務につき争つており、原告の速やかな賠償を受ける権利を妨害しているので、原告の被告会社に対する保険金請求は予めその請求をなす必要がある。

(5) そこで原告は被告津田の被告会社に対する保険金請求権を代位行使して右保険金の支払を請求しており、被告会社はこれを支払う義務がある。

3  損害

(一) 原告は本件事故により脳挫傷、上半身広範囲挫創、並びに右耳介・側頭部・頬部・皮部及び一部筋肉欠損の傷害を受け、昭和五二年六月二〇日から同五五年一〇月二九日までの間に川崎医科大学附属病院及び協立病院で入院一八六日、通院一〇四一日(実日数一三一日)の加療を受けた。しかしながら昭和五五年九月一一日症状固定の診断を受け、後遺障害として脊髄性四肢麻痺、右顔神経麻痺、顔面外傷、右外耳欠損、皮ふ瘢痕が残り、その程度は自動車賠償責任保険後遺障害等級(以下後遺障害等級という)七級及び九級併合による同六級(労働能力喪失率六七パーセント)と認定された。

(二) 損害額

(1) 治療費 八〇万〇四九五円

(2) 付添看護費 六三万七四七六円

(3) 入院雑費 一一万一六〇〇円

一日六〇〇円の一八六日分である。

(4) 逸失利益 四〇四二万七〇八二円

原告は事故当時満一九歳の健康な女子であつたが、本件事故による入・通院及び前期後遺障害のため、次のとおり得べかりし利益を喪失した。

イ 昭和五二年六月二一日から同五三年六月二〇日までの一年間は、昭和五二年度女子平均給与月額(満一九歳)九万五二七九円の一二カ月分一一四万三三四八円。

ロ 昭和五三年六月二一日から同五四年六月二〇日までの一年間は、昭和五三年度同月額(満二〇歳)一一万一九〇〇円の一二カ月分一三四万二八〇〇円。

ハ 昭和五四年六月二一日から同五五年六月二〇日までの一年間は、昭和五四年度同月額(満二一歳)一二万七二二五円の一二カ月分一五二万六七〇〇円。

ニ 昭和五五年六月二一日から同五五年九月一一日(症状固定日)までの八三日間は、昭和五五年度同月額(満二二歳)一四万八〇〇〇円の八三日分四〇万三八五七円。

ホ 昭和五五年九月一二日から同五六年九月一一日までの一年間は、昭和五五年度同月額(満二二歳)一四万八〇〇〇円の一二カ月分の六七パーセント(労働能力喪失率、以下同じ)分一一八万九九二〇円。

ヘ 昭和五六年九月一二日から同五七年九月一一日までの一年間は、昭和五六年度同月額(満二三歳)一六万五二三三円の一二カ月分の六七パーセント分一三二万八四七三円。

ト 昭和五七年九月一二日以降については、同日現在原告は満二四歳で、就労可能年数は四三年(ホフマン係数二二・六一一)であり、昭和五七年度の同年齢の女子平均給与月額は一八万四二三二円であるから、右の間の六七パーセント分三三四九万一九八四円。

(一八万四二三二円×一二カ月×二二・六一一×〇・六七=三三四九万一九八四円)

チ 以上イないしトの合計 四〇四二万七〇八二円

(5) 慰藉料 九四六万円

原告が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、入・通院につき一九六万円、後遺障害につき七五〇万円の合計九四六万円が相当である。

(三) 損害の填補 一一五〇万八一二三円

原告は次のとおり弁済を受けた。

(1) 自動車損害賠償責任保険から仮渡金 二五万円

(2) 同保険から後遺障害保険金 七五〇万円

(3) 被告会社から対人賠償保険金 三七五万八一二三円

(4) 計 一一五〇万八一二三円

(四) 弁護士費用 四八四万二八五三円

原告は、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、その報酬として着手金八五万円を支払い、判決認容額の一割相当の謝金三九九万二八五三円を支払う旨約したので、その合計額は四八四万二八五三円である。

(五) 前期(二)の合計金額から(三)の金額を差引き(四)の金額を加わえて損害金を計算すると、四四七七万一三八三円となる。

4  よつて原告は、被告津田に対し損害賠償金四四七七万一三八三円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五七年一〇月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告津田に代位して、被告会社に対し、被告津田に対する判決が確定したときは、保険金一五三九万七五二九円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで同法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)のうち、(1)の事実は認め、(2)は原告と被告との間で前段の如く任意自動車損害賠償保険契約が締結されていたことは認め、その余は争う。同(3)ないし(5)は争う。

3(一)  請求原因3(一)の事実は不知。

(二)  同3(二)の事実中、(1)、(2)は認めその余は不知。

原告の後遺障害に基づく逸失利益額の主張は明らかに過大である。つまり、原告は、昭和五八年において、会社勤めや家事手伝いにより年収約二二三万円を得ており、後遺障害による現実損害を受けていない。仮に労働能力喪失自体を損害とみるにしても、その労働能力喪失率は、女子の外ぼうに著しい醜状を残すものとまではいえないから、九級(三五パーセント)を基礎として算定すべきであり、その喪失期間も、傷害の程度及び機能回復の可能性が残つていることからみて、症状固定日である昭和五五年九月一一日から六年間程度とみるのが相当である。

(三)  同3(三)の事実は認める。

(四)  同3(四)の事実は不知。

4  請求原因4の主張は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故の直接の原因は、被告津田が他車の挑発にのり、加害車の速度を出しすぎ、そのため赤信号で停止しえず交差点に進入したことにあるが、同人がかかる挑発にのるについては、本件事故の少し前に飲んだビールの影響に起因するところが大であつたところ、原告は、被告津田が飲酒後も加害車の運転を継続することを認識していたのであるから飲酒を制止すべきであつたのにこれをせず、また飲酒後に同人が酩酊状態にあつたから加害車を運転するのを制止すべきであつたのにこれをしないで加害車に同乗したものであり、原告の右過失も本件事故の一因というべきであるから、原告の損害を算定するにあたつては、右の点を斟酌して減額すべきである。

2  好意同乗

原告は、被告津田と岡山県邑久郡邑久町にある多田電機株式会社岡山工場の従業員同志であり、原告に対し好意を寄せていた被告にさそわれ週平均二回位退社後被告津田運転の加害車に同乗し、食事をしたり、自宅まで送つてもらつたりしていた仲であるが、本件事故当日も、退社後被告津田の運転する加害車に同乗させてもらい夜の街をデートしようとし、国鉄岡山駅前にあるそごうビル屋上のビアガーデンに来て二人で飲酒した後、更に喫茶店に行くべく走行中本件事故に遭遇したものである。従つて、原告はいわゆる好意同乗者にあたるから、その損害を算定するにあたつては好意同乗者としての減額をなすべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、事故原因として被告津田の飲酒の影響が存したことは認め、その余は否認する。

飲酒及び飲酒後の加害車の運行は、終始被告津田が主体的に行つたものであり、原告は誘われるままそれに従つていたにすぎない。本件事故の原因は挙げて被告津田の速度の出しすぎにあるところ、原告は被告津田に対しこれを制止しており、もしそのとき同被告がこれを受け入れておれば本件事故は発生していなかつたはずである。

2  抗弁2の事実中、原告が被告津田運転の加害車に同乗していたいきさつについては認め、その余を否認する。

本件が好意同乗にあたるとしても、原告と被告津田とは、結婚を前提とした間柄ではなく、単なる友人関係の域を出なかつたものであり、本件同乗は、原告に好意を寄せている被告津田の主導の下にその都合に合わせて行つたにすぎない。したがつて本件同乗は殆ど被告津田の利益のためのものであり、好意同乗を理由に減額するのは原告に対し酷にすぎる。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、二号証、第三号証の一ないし三、第四ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし一六、第一三号証の一ないし八、第一四ないし第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第四一号証

2  原告本人(第一、二回)

3  乙号各証の成立は認める。

二  被告ら

1  乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二

2  被告津田本人

3  甲号各証の成立は認める。

理由

一  本件事故について

請求原因1の事実については当事者間に争いがない。

二  責任について

1(一)  請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがないから、被告津田は加害車の運行供用者として原告に対し本件事故による損害賠償をすべき義務がある。

(二)(1)  同2(二)(1)の事実は当事者間に争いがないから原告は被告津田に対する損害賠償請求権を取得した。

同2(二)(2)の事実のうち、原告と被告との間で任意自動車損害賠償保険契約が締結されていたことは当事者間に争いがない。そこで被告津田の保険金支払請求権の取得について判断するに、成立に争いのない乙第二号証の一、二の自家用自動車保険普通保険約款第六章第二〇条(保険金の請求)第一項によれば、被保険者の保険者に対する保険金請求権は損害賠償責任の額について被保険者(加害者)と損害賠償請求権者(被害者)との間で判決が確定したとき、または裁判上の和解、調停もしくは書面による合意が成立したときに発生し、これを行使することができると規定されている。右規定及び本件保険契約の性質に鑑みれば、右保険約款に基づく被保険者の保険金請求権は、保険事故の発生と同時に被保険者と損害賠償請求権者との間の損害賠償額の確定を停止条件とする債権として発生し、被保険者が負担する損害賠償額が判決等で確定したときに右条件が成就して右保険金請求権の内容が確定し、同時にこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

(2)  同2(二)(3)の事実については、被告津田本人尋問の結果を総合すると、同被告は口頭弁論終結時二八歳の工員であつて、その収入は自己の日常生活を賄うに足るにすぎず、見るべき資産も有してはいないため、本件事故による損害賠償においても自動車損害賠償保険金の支払を受けなければ被害者に対する弁済ができない状態にあることが認められ、その他に右認定を左右するに足る証拠がない。

(3)  同2(二)(4)の事実については、弁論の全趣旨から、被告らがそれぞれ損害賠償義務、保険金給付義務について争つていることは明らかであり、そのため原告の速やかに賠償を受ける権利が阻害される結果となつていることは否定できないうえ、本件におけるように損害賠償請求権者が同一訴訟手続で被保険者に対する損害賠償請求と保険会社に対する被保険者の保険金請求権の代位行使による請求とを併せて訴求し、同一の裁判所において併合審判されている場合には、被保険者が負担する損害賠償額が確定することによつてまさに右停止条件が成就することになるのであるから、当裁判所が本判決において認容する原告の被告津田に対する損害賠償額に基づき原告から被告会社に対してなす保険金の代位請求は、予めその請求をする必要がある場合と解される。

(4)  よつて被告会社は右保険金残額一五三九万七五二九円の範囲内で、債権者代位権を行使する被告津田の債権者たる原告に対し、保険金支払義務を負う。

三  損害について

1  傷害・治療・後遺障害等

請求原因3(一)の事実については、成立に争いのない甲第一号証、第四号証、第一二号証の一ないし一六、第一五、一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第三二号証、第三四号証、第三五ないし第三七号証の各一、二、第三八ないし第四一号証及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によつてこれを認めることができ、その他に右認定を左右するに足る証拠がない。

2  損害額

(一)  治療費八〇万〇四九五円及び付添看護費六三万七四七六円

右各費用を要したことについては当事者間に争いがない。

(二)  入院雑費

原告が本件事故による傷害のため一八六日間入院したことは前記認定のとおりであり、その間入院雑費として少なくとも一日当たり六〇〇円、合計一一万一六〇〇円支出したことが推認される。

(三)  逸失利益

(1) 前期三1掲示の各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和三二年一〇月六日生まれの健康な勤労女性であつたが、本件事故により事故発生日から昭和五五年九月一一日(症状固定日)までの間療養及びリハビリテーシヨンのため就労することができなかつたことが認められる。そこで原告は本件事故に遭わなければ当該期間も引き続き稼働して収入を得ることができたものと推認でき、右収入を推認するについては当該各年度賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計の女子労働者平均賃金の原告該当年齢区分によるのが相当である。

そうすると、原告は、イ昭和五二年六月二一日から同五三年六月二〇日までの一年間に昭和五二年賃金センサスの前同平均賃金(一八ないし一九歳)の年間合計金一一四万一六〇〇円、ロ昭和五三年六月二一日から同五四年六月二〇日までの一年間に昭和五三年賃金センサスの前同平均賃金(二〇ないし二四歳)の年間合計金一六〇万二九〇〇円、ハ昭和五四年六月二一日から同五五年六月二〇日までの一年間に昭和五四年賃金センサスの前同平均賃金(二〇ないし二四歳)の年間合計金一六六万一五〇〇円、ニ昭和五五年六月二一日から同五五年九月一一日(症状固定日)までの八三日間に昭和五五年賃金センサスの前同平均賃金(二〇ないし二四歳)の八三日分合計金三九万七五一三円の収入を得ることができたものと推認される。

(2) 次に昭和五五年九月一二日(症状固定の翌日)以後の逸失利益について判断するに、これは右症状固定によつて残つた後遺障害による稼働能力の喪失それ自体が損害であると解すべきであるから、右逸失利益額は、右症状固定の翌日の該当する年度の賃金センサス前同平均賃金の全年齢平均区分の額を基準とし、それに労働能力喪失割合をかけて年間逸失利益額を出し、更に当時原告が二二歳で以後六七歳までの四五年間稼働可能であつたから、右の四五年間分(但し昭和五七年一〇月二二日以降の四二年間分についてはホフマン方式による中間利息を控除する)を算定すればよい。

ところで、原告の労働能力喪失率は、前期三1で認定したとおり、後遺障害として残つた脊髄性四肢麻痺等(神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの、後遺障害等級九級一四号に該当)と顔面外傷、右外耳欠損、皮ふ瘢痕等(女子の外貌に著しい醜状を残すもの、同七級一二号に該当)の二つを基礎とし、諸般の事情を総合考慮のうえ判断すべきものであるところ、前者の脊髄性四肢麻痺等による労働能力喪失率は三五パーセントが相当であり、後者の顔面外傷・右外耳欠損等による労働能力喪失率は、後遺障害の程度としては前者より高度の障害ではあるが、原告の場合それが直ちに同等級の他の後遺障害における労働能力の喪失と同様の割合で減少するものとは考えられないので、これらと前掲甲第一号証、第一五、一六号証、第一七号証の一、二、第一八号証、第三九ないし第四〇号証及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によつて認められる諸般の事情を考慮して前者による労働能力喪失率に加算するとその喪失割合は五〇パーセントとみるのが相当である。

また昭和五五年度の賃金センサスと前同平均賃金の全年齢平均区分の年間賃金額は一八三万四八〇〇円である。

そこでこれらの数値によつて症状固定後の逸失利益を算定すると、その額は別紙計算書に示すごとく二二三八万六九三四円となる。

なお被告は請求原因の認否3(二)において、原告は現在相応の収入を得ており現実の損害を受けていないし、仮に労働能力の喪失自体を損害とみても、労働能力喪失率は後遺障害等級九級の三五パーセントを超えることがないし、同喪失期間も症状固定後六年間とみるべきであると反論する。しかしながら、まず反論の第一点については、乙第一号証の一ないし三、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、被告主張のとおり、原告は現在訴外山陽電研株式会社で設計の補助の仕事と、勤務終了後母の経営するスナツクでアルバイトをして相応の収入をあげているが、前記原告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、それは経営者の協力や、母の好意、あるいは、結婚のむずかしさや将来の生活への不安等もあつて原告が人並み以上の努力をしていることなどによる部分が大きいものと認められるし、前掲甲第一八号証、第三九、四〇号証及び原告本人尋問(第二回)の結果を総合すると、原告の右外耳は完全に欠けており、右頬部には甲第三九号証(外貌醜状調査票)の右正面図のとおり、右こめかみから右頬下部に下した線より後ろ部分に皮膚移植瘢痕が生じており、右瘢痕は髪型の工夫等によりある程度目立たなくすることができるものの、他方日常生活において完全にこれを隠して暮らすにはなおかなりの困難がともなうこと、その他腕等にも夏には目立つ瘢痕が残つていることが認められる。その結果原告自身の精神的苦痛も手伝つて就労しうる職種がある程度制約され、あるいは就労が可能な場合も就職にあたつて不利益な処遇がなされる可能性が少なくないことが推認されるところであり、原告は前記醜状痕によつて前記認定のごとくその労働能力の一部を喪失したものと認めるべきである。次に反論の第二点については、原告本人尋問の結果(第一、二回)に弁論の全趣旨を総合すると、右後遺障害は形成手術等による改善の余地がもはや殆どなく、労働能力の回復はないと認められるので、これまた失当というべきである。

(四)  慰藉料

原告は、未婚の女性で、事故当時一九歳であつたが、前記認定のとおりの部位・程度の傷害を受け、人生で最も希望に満ちた時期に長期間にわたり入・通院を余儀なくされたこと、前記認定のとおり脊髄性四肢麻痺等による運動及び知覚障害と、右耳介欠損等の顔面醜状痕・背部の広範な傷害痕等の後遺障害が残り、その結果結婚が著しく困難になり、少なくとも、相当条件が低下したこと、仮に結婚できたとしても結婚生活に、あるいは出産等に多大の困難を伴うことが予測されること、その他本件各証拠より認められる諸般の事情を総合して勘案すると、本件事故によつて原告が受け、あるいは将来受けるであろう精神的苦痛は多大であり、これに対する慰謝料は一〇〇〇万円をもつて相当と判断する。

(五)  以上(一)ないし(四)の損害額合計 三八七四万〇〇一八円

四  過失相殺・好意同乗の抗弁について

1  本件事故の原因として被告津田の飲酒の影響が存したこと、及び原告が被告津田運転の加害車に同乗したいきさつについてはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七ないし第九号証、第一〇及び第一一号証の各一、並びに原告(第一回)及び被告津田各本人尋問の結果を総合すれば次の事実を認めることができ、その他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  原告と被告津田の両名は、共に岡山県邑久郡邑久町の多田電機株式会社岡山工場の従業員で、昭和五二年三月ごろ知合い、やがて交際を始め、本件事故当時は、被告津田が一週間に二回以上の割合で原告をさそい、右会社退社後同人の自動車に原告を乗せ、岡山市国富の原告方まで送るとともに、その途中食事や喫茶に立寄つて話をするのが通常であつた。当時被告津田は原告との結婚を望んでいたし、原告もそのことに気付いていた。

(二)  本件事故当日も、いつものとおり、退社後被告津田が加害車に原告を乗せ岡山の自宅へ送ることにした。途中被告津田の提案で岡山駅前にあるビアガーデンへ行き、被告津田がビール大ジヨツキ二杯、原告が同中ジヨツキ一杯を飲んだ。更にこの後岡山市内二号線バイパス沿にあるいつもの喫茶店へ行くこととし、津田運転の加害車に乗つて出発した。原告はビヤガーデンに寄るときも、そこを出て喫茶店に向うときも、被告津田が飲酒の上加害車を運転することを知りながらこれを制止せず、これに同乗した。

(三)  右喫茶店へ向う途中、被告津田は、前記飲酒の影響により、併行車に競争を挑まれるや、これに対抗するため、速度をあげ、原告がやめよと制止するのも聞き入れず、制限速度超過の時速約一〇〇キロメートルで同車を抜き去り、更にそのままの速度で加害車を走行させ、本件事故現場交差点にさしかかつたのであるが、前方一〇〇メートル余先右交差点の対面信号が赤であるのに気付きながら交差点手前で停止せず、そのままの速度で交差点内に進入したため、折から左方から同交差点に進入してきた訴外長尾憲一運転の自動車に衝突し横倒しになつたまま一〇〇メートル余滑走して停つた。

2  以上の認定事実によれば、(一)本件事故の原因は、被告津田の、大幅な制限速度違反、赤信号を無視した交差点への進入及び飲酒運転にあり、その遵法精神の欠如の責めは厳しく糾弾されてしかるべきであり、他方原告は、本件事故の直接の原因となつた被告津田の速度違反運転の際には、これをやめるよう制止しているのであるが、本件事故の遠因となつた飲酒運転については、被告津田が加害車を運転することを知りながら飲酒をいさめたり、飲酒後の運転を制止したりせず、慢然同被告運転の加害車に乗り込んでいたのであるから、その点において多少の過失があつたものといわざるをえず、これらの点を総合すると、原告の損害を算定するにあたつて二〇パーセントの割合の過失相殺をするのが相当である。(二)次に、原告と被告津田は、少なくとも被告津田においては原告との結婚を意識していたほどの交際であつて、原告も加害車に度々同乗して付合つていたという経緯、及び処々に立ち寄つてはいるものの、そもそもは同被告において原告を自宅まで送つて行く途中の事故であつたことからすれば、原告は被告津田車の好意同乗者と認められるのであり、原告の損害を算定するにあたつては、右事情を斟酌して、慰藉料額から更にその二割を減額するのが相当である。

3  前記三の損害額につき右四2の両減殺を行うと、左記の金額となる。

二九三九万二〇一四円

五  損害の填補

原告は本件事故につき自動車損害賠償責任保険から仮渡金二五万円及び後遺障害保険金七五〇万円、被告会社から対人賠償保険金三七五万八一二三円、合計一一五〇万八一二三円の損害の填補を受けたことは原告の自認するところであるから、右金額を前記損害額から控除すると、一七八八万三八九一円となる。

六  弁護士費用

本件事案の性質、審理の経過及び認容額に照らし、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求めうるべき弁護士費用額は一五〇万円とするのが相当である。

七  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告津田については、金一九三八万三八九一円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和五七年一〇月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、被告会社については被告津田と連帯して金一五三九万七五二九円及び本判決確定の日の翌日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める点において、いずれも理由があるから、これを認容し、被告津田に対するその余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項、同条三項をそれぞれ適用して(なお担保を条件とする仮執行免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下する)、主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井達也)

計算書

(1) 昭和55年9月12日から昭和57年10月21日までの分

183万4800円×0.5×2年40/365=193万5336円

(2) 昭和57年10月22日から67歳まで42年間の分

183万4800円×0.5×22,2930=2045万1598円

(3) 以上計 2238万6934円

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